Teaching Tips とは授業計画や指導上のちょっとした工夫のことです。「授業改善のためのアイデア」とも言われます。ティップスによって、授業の雰囲気がガラリと変わったり、教員の労力を大幅に軽減できたりします。本連合会員のティップスを紹介します。なお、新しいティップスを募集中です。(種目の特性によるものは除きます。)

1.授業前準備

授業前に行う準備には、指導案(時案)作成や配付資料、AV資料、プレゼン資料、機器、用具、施設点検、ライン引きなどがあります。

  • 授業の内容についてメールやLMS(学習管理システム)を通じて事前に連絡し、資料を添付したり、種目の動画を知らせ見ておくように指示したりする。(小林雄志・岡山大学)
  • 学生の顔と名前を覚えるために、卓球の授業で着用するゼッケンに名前をかかせるが、そのゼッケンを用意する。(葛西順一・早稲田大学)
  • 最初の授業で集合写真を撮り、それに名前を記入し、授業外の時間にもたまにチェックすることで、なるべく早く履修者全員の顔と名前を覚えるようにしている。(柴田啓介・酪農学園大学)

2.点呼・出席確認

授業開始時に集合や整列させたり、履修者名簿や履修カードで点呼・出席確認をしますが、点呼の際に、学生に大きな声で返事をさせ、手を挙げさせ、目を合わせるのは基本です。学生の健康状態を確認し、必要ならば声をかけたり、衣服やシューズが整っていなかったら注意しなければなりません。

  • 授業開始前から集まってきた学生を順に出席確認すると時間短縮できる。(木内敦詞・筑波大学)
  • 初回に集合写真を撮り、次回以降集合写真に名前を記入したものを張り出しておくことで、教員だけでなく学生同士でも名前を覚えることに役立つ。(冨岡徹・名城大学)
  • チームごとにキャプテン(リーダー)に点呼をとらせる。(内藤耕三・創価大学)

3.挨拶と目標告知、注意など

その日の授業の内容や目標、危険防止、受講態度などについての注意などについては、ホワイトボードに記入しておくことも良く行われています。

  • 学生の雰囲気が全体的に落ち込んでいるような時には気分を高揚させるような(サイキングアップ)、落ち着きがないようなときには気分を鎮めるような(リラクセーション)対応をしている。(勝亦陽一・東京農業大学)
  • 受講態度についての注意として、受講者全員が楽しくスポーツ活動に取り組めるために、経験者には未経験への技術的・戦術的指導やミスが起きた時のメンタルケアを促し、未経験者には技能レベルは問わず、競技への積極的な参加を促す。(多賀健・苫小牧工業高等専門学校)

4.ウォームアップ

ウォームアップの目的や内容、留意事項などについては実技内容によって異なります。

  • 球技であればボールを使いながらダイナミックストレッチをおこなう。例えば、バスケットボールであればドリブルで股の間を通しながら足を上げる、ランジウォークをおこなう。(渡邉陵由・八戸学院大学)
  • ダンスなどの授業であればリズムに乗りながらダイナミックストレッチをさせる。(井村祥子・首都大学東京)
  • 学生と向き合ってウォームアップをすると理解しにくい場合があるので、鏡があれば鏡に向かい、学生には背を見せて行う時もある。(大岡直美・東海大学)
  • ウォームアップをしながら、スポーツでの怪我の体験を報告させ、ウォームアップの必要性を認識させている。(小林勝法・文教大学)

5.グループ分けや順番決め

ペアを組ませたり、グループに分けたり、順番を決める際に円滑に行うティップスは数多くあります。

  • ペアリングの偶然性を高めるため、全員に裏返したトランプを配り、同じ色で同じ数字の人とペアを組むようにする。お互いに自己紹介しあいコミュニケーション力を醸成できるほか、ゲーム中の瞬時な位置取りなど声掛け以外の洞察力の育成にも役立つ。(冨岡徹・名城大学)★PDF
  • 利き目や腕の組み方、柔軟性、閉眼片足立ちなど、身体に関心を持たせながらグループ分けしている。(小林勝法・文教大学)★PDF
  • 前日の睡眠時間の長短でグループ分けし、対戦させると短時間睡眠グループが敗戦することが多く、睡眠時間確保の重要性を実感させている。(島崎崇史・上智大学)

6.クールダウン

クールダウンの目的や内容、留意事項などを伝えることは必要です。

  • ストレッチ後、2-3分、体を左右均等にすることを意識させながら仰向けに寝させ、使った部位や疲労感を確認させたり、心拍数を測定させる。(大岡直美・東海大学)

7.片付け・清掃

用具の片付けやその分担については、当番制やゲーム結果によって決めることが良く行われています。

  • 片付けの時間を計り、その結果を伝えることで徐々に時間短縮(片付け・清掃への積極的な参加)を意識させる。(小林雄志・岡山大学)
  • あらかじめホワイトボードに準備や片付けの分担(ポールやネット、得点板、モップかけなど)を書いておき、グループ内で担当者を決めさせると円滑に進められる。(小林勝法・文教大学)

8.終了時の挨拶・伝達

授業の終了時の挨拶や授業のまとめ、次回の予告、学期の終了時についても工夫がされています。

  • 本日の授業のMVPを推薦しあい、その理由も述べさせる。(冨岡徹・名城大学)
  • 1学期間に撮影していた写真をスライドショーとして最終回に見せて、これまでに行ってきた活動(練習や試合等)やその成果(成長過程)を振り返らせている。(小林雄志・岡山大学)

9.成績評価

観点別評価は、「知識・理解」や「思考・判断・表現」、「関心・意欲・態度」、「技能」などの3~4観点で実施している大学が多い。これらの観点について、それぞれの観点にふさわしい評価方法、例えば、試験(実技、筆記)やレポート、作品、実習ノートなどの他、「教員による観察」があります。評価基準(ルーブリック)、相対評価、成績調整などについても工夫がされています。

  • 体育実技は全体的に成績評価が高くなりすぎる傾向があるため、どのクラスも「S(90点以上)が受講者の2割未満、SとA(80点~89点)の合計が5割未満」にするよう調整している。(上田大・文教大学)

10.改善の取り組み

授業終了時に感想を書かせることは、学生自身だけでなく、教員自身の振り返りになります。学生の授業評価や成績結果などから授業を振り返り、改善に取り組みましょう。

  • 授業終了時に、授業で学んだことや疲労度、eラーニング教材の実施状況などをスマホで回答させ、次回の授業計画の参考にしている。アンケートはグーグル・フォーム(無料)を利用し、URLはQRコードを学生に提示している。(小林勝法・文教大学)

11.コミュニケーション促進

教員と学生や学生同士のコミュニケーションを促すティップスとして、さまざまな工夫がされています。

  • 1回の授業で学生を100回褒める。褒めることは、すなわち相手を承認すること。承認の言葉には、結果承認(成果を褒める)、行動承認(やっていることを褒める)、存在承認(元気でいてくれることを褒める)が_あります。学生に応じて言葉を使い分けて、出し惜しみしないで褒めましょう。そうでないと1回も声を交わさなかった学生が出ることになります。(長谷川悦示、筑波大学)
  • コミュニケーション力のルーブリック(8項目5段階)を作成し、それに留意して受講するように指導すると_ともに、授業終了時にルーブリックによる自己評価をスマホでさせている。(平工志穗・東京女子大学、小林勝法・文教大学)

12.学生の多様性への配慮

留学生や障害者、LGBTなど多様な学生への配慮は欠かせません。学習経験やできることが異なりますので、学生のレディネスや状況を把握して、学生の合意のもとに指導する必要があります。レディネスを把握するために履修カードがよく利用されています。出身地や運動部経験、既往症、現在の運動習慣などを把握できます。このほかについてもさまざまな工夫がされています。

参考文献

B.G.Davisほか『授業をどうする!―カリフォルニア大学バークレー校の授業改善のためのアイデア集―』東海大学出版、1995年

池田輝政ほか『成長するティップス先生―授業デザインのための秘訣集―』玉川大学出版部、2001年

長崎大学教育イノベーションセンター『長大教員のためのティーチングティップス』長崎大学、2016年

大学ゴルフ授業研究会『ティーチング・ティップス』(同研究会ホームページ)

小林勝法・木内敦詞『構造図を用いた授業デザイン』_– YouTube https://www.youtube.com/watch?v=R2cHo2GqDUg